So I’m just sittin’ on a fence
バッタ
私は、穴を掘っていました。
地元の工場が、たくさんの畑をつぶして、モータープールをつくるのです。
広い畑の中に、ポツン、ポツンと境界が打たれ、そこに有刺鉄線のついた
背の高いフェンスが張られます。
境界から境界へ、そのフェンスの基礎ブロックを入れてゆきます。
私はその為の穴を掘っていました。それが私の仕事です。
もう冬も近く、冷たい北風がススキをなぎ倒していました。
そろそろ夕日が西の山にかかり始め、体もずいぶん冷えてきました。
「この穴を掘ったら、今日は終わりにしよう」
そう思って、最後の穴を掘り始めました。
穴はすぐには掘れません。畑の土はねばっこくて、2、3回掘るとスコップにたくさんの
土がついて、重くて使えなくなります。何度か、木の枝などでその土を削いでは掘り、
削いでは掘りと繰り返してゆきます。
ある程度の深さになったら、ドン、ドンと基礎ブロックを突いて入れます。
「もう、そろそろかな」
そう思ったとき、穴の中に石がひとつ落ちてしまいました。そんなことはよくある事ですが
私にとってはすごくいやな事です。穴に落ちた石は、なかなかスコップでは拾えません。
そうゆう時は、どうしても手でその石を取らなければなりません。
私は、スコップを横に刺し立ててしゃがみこみました。
左手を地面につき、穴の中に手を入れます。
しゃがみこむと、背中のすそから北風がはいってきます。
「ああ、寒い」
そう思って、ふと前を見ると、目の前の枯れススキの1本にバッタがいました。
バッタはススキと同じ茶色で、よく見ないとわからない程です。
きつい北風にビュービュー吹かされるススキに、しっかりと6本の足でしがみついています。
私は、穴の中の石をつかんだまま、しばらくその光景を見ていました。