So I’m just sittin’ on a fence
バッタ 2
少しのあいだ、背中の寒いのも忘れていました。
涙が出そうになりました。なぜだかわかりません。そんな気持ちは初めてでした。
ふと我に返って立ち上がり、石を草むらのほうへ投げました。
メジャーを手に取り穴の深さを測ると、あと5センチ程でした。あと、ひと掘りです。
「無心になって掘ろう」
そう思いました。
バッタが気になってしかたがないのです。
なぜなら、私は虫が大好きだからです。子供の頃から虫ばかり追いかけていました。
ファーブル昆虫記を夢中になって読んだものです。
ですから、大人になった今でも、たとへ仕事中でも虫を見つけると、
手を止めて見入ってしまうのです。
「とにかく、これだけは終わらせよう」
と、スコップを取り、掘り始めました。
ちらっとバッタを見ましたが、ススキが風にゆれて分かりませんでした。
掘った穴に基礎ブロックを突いて入れ、まわりを土で埋め戻します。
周りを何度もかかとで踏みしめて、これで終わりです。
スコップを突き刺して、軍手をとってポケットに入れました。
そして、ゆっくりしゃがみこんで夕日の中のススキを見ました。
相変わらず、北風がきつく吹きつけています。
うまく視点が合わないまま、なぜ、さっき涙が出そうになったのか少し考えました。
バッタに対して「ガンバレ」という気持ちだったのか、それとも、きびしい自然の無情が
何かとだぶって感じたのか・・・。
分からないまま、私は少しずつススキに近づいていきました。
バッタはまだいました。
しっかりとススキの軸にしがみついています。今度はもっと近くで見ることが出来ます。
ショウリョウバッタのようです。よく見かけるのは緑色ですが、私が見つけたのは
茶色に近い色で、枯れススキの中にいるとなかなか見分けのつかない保護色です。
もう少し近づいていてみました。
そして私は、言葉をなくし、動けなくなりました。