医者の宣告、1年半を過ぎた頃、
俺は同級生に誘われて、スナックで飲んでた。
もう11時もまわった頃だったか、オカサンからの電話。
「今、どこにおる?」
「今、サカッピに誘われてWINKってスナック」
「おー、じゃー行くわ」
しばらくするとドアが開いて、仙人みたいな髭のオカサンが入ってきた。
「よー」
「よー」
「あー、オカサン」
「ウーロン茶。あ、やっぱり焼酎の水割りの薄っいやつ」
「どーしたんよ、こんな時間に」
「たっけん、バンドやろうぜ」
「なに?」
「バンド。たっけん、ストーンズのリアリティーズちゅうCD聴いた?」
「いや」
「メッチャええで」
「新曲?」
「ちゃう。ちゃうけど、Tumbling Diceがメッチャええ」
オカサンは昔からその曲が好きで よく踊ってた。
「どーえーのよ。ライブ?」
「今、車にあるで聴きにいこ」
「おー」
・
・
1回聴いて
「メッチャええやん」
「そやろー」
「もう1回聴こ」
「おー」
・
・
もう1回聴いて
「えーなー」
「Beast Of Burdenもええでー」
「うそ、聴かして」
1回聴いて・・・もう1回聴いて
「オカサン、俺んとこの倉庫で大音響で聴こうぜ」
「おー、えーなー」
倉庫について何度も何度も聴いた。
オカサンはミックのようにクネクネ踊ってた。
俺はキースのようにギターを弾いた。
「サイコーやの!」
「サイコーや!」
「よし。俺、メンバー集めとくわ」
「OK。そいじゃーな」
いい夜だった。
次の日になって、サカッピを店に置いてきた事に気づいた。
それから先
オカサンとステージに上がったのは徳風高校の文化祭だけだった。
アキヨシがギターで、俺がドラム。
オカサンは真っ白けの顔で、また変な踊りを踊ってた。
変わらないのは、練習無しのぶっつけ本番。