Bad Day

 

全くタイミングの悪い1日だった

 

葬儀の次の日、行くはずだった現場が入れなくなって

代わりに行く事になったのが月の庭の近くのお寺。

全く仕事をする気にはならなかったけど

トラックに乗って出かけた。

 

月の庭では

昨日のお祭り騒ぎの片づけを

たくさんの人がしていた。

 

やっぱり、仕事はやめだ。

トラックを月の庭の駐車場に止めて

30分ほどいろんなことを考えていた。

今夜は、毎年呼ばれている建設会社の忘年会がある。

行きたくないけど、いかなくちゃ。

 

夕方まで何をしていたか思い出せないけど

ビールを1缶飲んでナボに送ってもらうことにした。

「今年は会場がいつもと違うので地図を送ります」

というFAXを見て車を出した。

その会場はオカサンが入院していた病院の近くだった。

まったく、今日はついていない。

 

「今日は元気ないね」

社長がポンと肩をたたいた。

ビールも酒も、どれだけ飲んでも酔わない。

「竹中さん、何か歌って!」と女の子に言われたが

「今日は勘弁してよ」と苦笑い。

「じゃあ、私が替りに歌いまーす」とその子が入れたのは

イルカの「なごり雪」だった。

 

歌詞が身に染みた。オカサンとかぶった。

胸が締め付けられるようだ。ヤバい泣きそうだ。

 

「君が去った」でトイレに立った

鏡の中の自分を見て、俺はこんなに弱かったのかと思った

顔を洗って部屋に戻ろうとすると、隣の入り口に女の子の雷様が4人しゃがんでいた。

赤、青、黄、緑の服とカツラを被ったドリフターズでおなじみの雷様だ。

一番前の子がドアの隙間から突入のタイミングを見ている。

すると一番後ろの子がこっちを振り向いて

俺に「しー」と人差し指を口に当てた。

僕はこの日、初めて笑った。

 

突入!

会場から大盛り上がりの声が聞こえる。

楽しそうな宴会やなー、世の中はこんな時期だ。

自分の部屋に戻ろうとして、ふと隣の部屋の立て札を見た。

そこにはオカサンがいた病院の名前が書いてあった。

あの4人の雷様は看護師さんだったんだ。

 

全身の力が抜けた。

ただ、心の中にあった悲しみみたいなものも無くなった。

 

早めに失礼をして外に出ると

いつの間にか小雨が降っていた。

コンビニの角にある大木の下に座って

地面を見ているうちに急に酔いがまわってきた。

目をつむって、しばらくウトウトしたが

目を見開いて 地面を見たまま

「俺は生きる!」と叫んだ。

 

顔を上げると、たまたま通りかかったおじさんが

びっくりしてこっちを見ている。

少し笑えた。これが今日の締めくくりだ。

 

おっさん、おっさんも長生きしなよ。

 

人間、生きているうちが花なんだぜ

 

 

 

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